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津地方裁判所 昭和54年(ワ)112号 判決

原告

山中翼

被告

鈴木照雄

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金六三二万四二二〇円及び内金五七二万四二二〇円に対する昭和五一年七月三一日から、内金六〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告のその余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金二二九一万六〇八七円及びこれに対する昭和五一年七月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

原告山中翼は、左記事故により受傷した。

(1) 日時 昭和五一年七月三一日午前九時二〇分頃

(2) 場所 広島市吉島町二番一八号先路上

(3) 加害車両 普通貨物自動車

(4) 加害者 被告鈴木照雄(以下「被告鈴木」という)

(5) 被害者 原告

(6) 加害車両の保有者 被告中国リンナイ株式会社(以下「被告会社」という)

(7) 受傷の内容 頭蓋骨々折、脳内出血

(8) 態様 原告が、前記場所を西から東に向け道路を横断したところ、右道路を南から北へ進行してきた被告鈴木運転の加害車両と衝突しはねとばされた。

2  原告の治療経過及び後遺症

(1) 昭和五一年七月三一日より同年八月三〇日迄、土谷病院に入院(三一日間)

(2) 同年八月三一日より昭和五三年一月六日迄、同病院に通院加療(実通院一七日間)

(3) 後遺症(昭和五三年一月六日症状固定)視力障害(右眼失明)、顔面に醜状(右まゆ上に三・〇センチメートル×〇・二センチメートル大、右まぶたに二・〇センチメートル×〇・一センチメートル大の各傷痕)及び将来に(一九歳か二〇歳ころ)癲癇を併発する公算が大である。

3  責任

被告鈴木は、加害車両の運転者であり民法七〇九条に基づく責任及び被告会社は、加害車両の保有者として自賠法三条に基づく運行供用者責任を負う。

本件事故は、被告鈴木が本件場所がT字型交差点であり、かつ交差点北方道路の幅員が狭くなつていること更には道路西側の空地に駐車車両があつたのであるから、道路を横断する者があることを予測して前方を注視すべきであり、駐車車両によつて見通しが悪く横断者の有無を確認できなければ、十分に減速すべきであつたのにこれを怠つたことにより惹起したものである。

4  損害

(1) 入院雑費 金一万八六〇〇円

(入院期間三一日間、一日金六〇〇円の割合)

(2) 付添費 金一〇万三〇〇〇円

(入院三一日間、一日金二五〇〇円の割合及び昭和五一年八月三一日から同五三年一月六日迄の治療実日数一七日間、一日金一五〇〇円の割合)

(3) 逸失利益 金二一六六万四四八七円

(原告は、本件事故により自賠責施行令別表七級の後遺症障害と認められ、五六パーセントの労働能力を喪失し、原告が大学へ進学することが確実であるところから、賃金センサス第一巻第一表の産業計企業規模計「旧大・新大卒」の収入を基準とし計算)

(4) 慰謝料 金五九八万円

(傷害による慰謝料金一八〇万円・後遺症による慰謝料金四一八万円)

(5) 損害の填補 金六二七万円

原告は、金六二七万円を自動車損害賠償保障法により、右事故の損害賠償の支払として受領した。

(6) 弁護士費用 金一四二万円

(日本弁護士連合会報酬等基準により、原告訴訟代理人と着手金並びに報酬として約定)

(7) 以上総合計二二九一万六〇八七円

5  よつて、原告は被告鈴木に対し不法行為に基づき、被告会社に対し自賠法の運行供用責任に基づき金二二九一万六〇八七円及びこれに対する事故発生日たる昭和五一年七月三一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告らの主張

1  請求原因に対する認否

請求原因第1項の事実は(7)及び(8)の点を除き認める。(7)は不知、(8)については後記2・(1)のとおりである。同第2項の事実は不知、同第3項の事実は否認する。同第4項中(2)及び(5)は認める。(1)については金一万五五〇〇円(一日五〇〇円の割合で三一日間)(3)については金六三八万三一七二円(一八歳から六七歳まで四九年間就労可能とし、一八歳の新高卒者の初任給を基準とし、労働能力喪失率は三〇パーセントとして計算すべきである)(4)については金五〇八万円(後遺症による慰謝料四一八万円、傷害による慰謝料金九〇万円)とみるのが相当であり、(6)は不知。

2  被告らの主張

(1) 事故態様

被告鈴木は、普通貨物自動車を運転し、時速約三五キロメートルから四〇キロメートルのスピードで道路を北進し現場近くに差しかかつたところ、左前方の本川の土手の船着場の空地に道路と直角に駐車してある車両の陰から原告が加害者の前方に飛び出し、被告鈴木は約七メートル手前でこれを発見し、急制動の措置をするも及ばず、原告は車左側前部照灯の下付近に衝突し、衝突場所から約一四・六メートル前方の地点に転倒したものである。

(2) 被告らの免責

右のとおりであつて事故発生はひとえに被害者原告の全面的過失によるものであり被告鈴木には運転上の過失はなく、したがつて被告らに責任はない。

(3) 過失相殺

仮に然らずとするも事故発生については、被害者の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌(親権者の監護義務の懈怠として五〇%の過失相殺)すべきである。

(4) 原告は自賠責保険から原告が自認する後遺症補償六二七万円のほか看護料八万三〇〇〇円、雑費一万二四〇〇円、文書料六〇〇円、治療費五二万四五八五円及び慰謝料二三万九二〇〇円(合計金八五万九七八五円)を受け取つた。

三  被告らの主張に対する原告の反論等

(1)及び(2)のうち本件事故が全て原告のとび出しに起因するものであり、被告らは免責されるとの点は否認する。

(3)について本件の過失相殺の割合は、原告一割被告九割とすることが昭和五三年七月一二日原告と被告ら代理人金山美智夫、隈元康博との間で協定されており、本訴においても右協定の効力は維持されるべきものである。

(4)については認める。したがつて治療費分については当初から損害として請求していない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項の事実は、(7)及び(8)の事実を除き当事者間に争いがない。

二  成立(原本の存在及び成立共)に争いのない甲第一号証の一・二、第二号証の一・二、第三号証の一・二、及び第四号証の一ないし三並びに原告法定代理人山中一馬の尋問の結果を総合すると、原告が昭和五一年七月三一日、本件交通事故により頭部外傷(脳内出血、頭蓋骨々折)顔面挫創の傷害を負つたこと、及び請求原因第2項の事実が認められる。

三  成立に争いのない乙第一、第二号証及び被告鈴木照雄本人の各尋問結果を総合すると、以下の事実が認められる。

1  事故当時の本件道路の状況

本件事故の発生した道路は、広島市吉島町二番一八号加古町食糧販売所先の本川東側どて通りの幅員約九メートルの市道と、右道路の東方より交差する幅員約八・一メートルの道路とのT字型交差点の市道上であつて、右交差点は信号機によつて交通整理がなされておらず、交差点内に横断歩道もなく、道路西側は、本川との間に約五メートルの幅の空地であつて車道との間には高さ約一メートルの鎖を張つた柵がある。右空地には駐車中の車両があり、西側の見通しをさえぎつている。右道路東側には、約二・八メートルの歩道があつて、人家が密集し、交差道路に対する見通しを悪くしている。

2  衝突の態様

被告鈴木は、羽衣町から住吉町に向け前記道路を時速約三五キロメートルから四〇キロメートルで進行中、右T字型交差点手前で、左前方約七メートルの駐車車両の陰から、道路を横断しようとして出て来た原告ほか一名の児童を発見し、急ブレーキをかけたが及ばず、駐車車両をすぎ前記柵から二・九メートル「住吉町支15分1分の1」とされている電柱から柵に平行して三・六メートル手前の交差点内道路左側で被告車の左側と前部を原告に衝突させ、原告は衝突場所から一四・六メートル先の地点まではねとばされ転倒した(原告法定代理人尋問の結果は前掲各証拠と対比し採用できない。)。

四  右認定の道路状況からすれば、東側交差道路との見通しも悪くまた西側の駐車車両によつて横断者の有無が確認しにくい事情にあつたのであるから自動車の運転者としては前方注視はもとより更に減速し安全を確認したうえ進行すべき注意義務があつたものというべく、しかして、前記乙第二号証によれば、少くとも駐車車両の一六・五メートル手前で横断しようとしていた原告を認識しえたものと認められるから、本件事故発生につき被告鈴木に過失があつたことは否定しえないところであり、したがつて被告らの免責の主張は採用できず、被告鈴木は民法七〇九条、被告会社は自賠法三条により、後記認定の原告の損害を賠償すべき義務がある。

五  そこで原告が本件事故により蒙つた損害について検討する。

1  請求原因第4項・(2)について当事者間に争いがない。同(1)については原告が三一日間入院したことは前認定のとおりであり、経験則上右入院期間中一日当り金六〇〇円合計一万八六〇〇円の雑費を要したものと認めることができる。

次に同(3)の過失利益については、原告は事故当時成立に争いのない甲第六号証によれば満二歳一〇月余の幼児(女子)であり、症状が固定した昭和五三年一月六日の時点で満四歳(前記甲第四号証の三、第六号証)と認められ、かつ前認定の後遺障害(右眼失明・等級八級)からみて労働能力喪失率を四五パーセント、また就労可能年数は一八歳から六七歳まで四九年とみるのが相当であるから、本件の場合少くとも昭和五二年賃金センサスを基礎とする年齢別平均給与額の女子一八歳の平均給与月額九万四七〇〇円(当裁判所に顕著な事実である)を基準とし、これに右労働能力喪失率の四五パーセントと症状固定時の年齢四歳に対応する新ホフマン係数一七・六七八を乗じて算出された額九〇四万〇一七五円と認めるのが相当である(九万四七〇〇(円)×一二×〇・四五×一七・六七八=九〇四万〇一七五・六(円)、コンマ以下切捨)。

2  ところで、前記甲第六号証及び原告法定代理人尋問の結果によれば、原告は事故発生当時二歳一〇月余の幼児であり、原告と同行していた兄斉志も当時六歳余にすぎなかつたにもかかわらず、両親共に同人らが戸外で遊ぶにまかせ、その行動に格別留意していなかつたものと認められるから、親権者において監護義務懈怠の過失があるものというべく右は被害者側の過失として斟酌してしかるべきものである。しかして前認定の事故の態様、被告鈴木の過失の内容、原告の年齢等を彼此勘案すると、その過失相殺割合は原告側二に対し被告側八とみるのが相当であり、これにしたがつて前記各損害の合計九一六万一七七五円(一万八六〇〇(円)+一〇万三〇〇〇(円)+九〇四万〇一七五(円))について相殺すると七三二万九四二〇円となる(原告は右過失割合につき原・被告間に原告一割被告ら九割とする合意が成立した旨主張するが、仮にそうであるとしても過失相殺の性質上これが裁判上の拘束力を有するものとはとうてい解されない。)。

3  次に本件事故により原告が多大の精神的苦痛を蒙つたことは明らかであるところ、本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、傷痕、年齢、その他諸般の事情を斟酌すると、これに対する慰藉料額は金五〇〇万円とするのが相当であると認められる。

4  しかるところ、被告らの主張(4)の自賠責保険による損害の填補については当事者間に争いがないから右のうち六六〇万五二〇〇円(右損害の填補のうち治療費五二万四五八五円については原告は当初からこれを控除して請求していると認められるので右を除いた分の合計額)を前記2及び3の損害額合計一二三二万九四二〇円(七三二万九四二〇(円)+五〇〇万(円))から控除すべく、そうすると原告の損害額は五七二万四二二〇円となる。

5  しかして、原告が弁護士に依頼して本件訴訟遂行にあたつた点は記録上明らかであり、その報酬契約が原告主張のごとくであることは弁論の全趣旨によりこれを推認しうるが、本件訴訟の期間・態様等を考えると、右認定額の約一〇パーセントに相当する金額である、金六〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

6  以上のとおりであるから、結局原告が本件事故により現に蒙つている損害は、前記4及び5の合計六三二万四二二〇円(五七二万四二二〇(円)+六〇万(円))となる。

六  よつて、本訴請求のうち、金六三二万四二二〇円及び内金五七二万四二二〇円に対する不法行為の日である昭和五一年七月三一日から、内金六〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるのでこれを認容し(弁護士費用については支払期日の主張立証がないから本判決の日の翌日から遅延損害金を付することとする)、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法第九二条本文・九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上野精)

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